信長燃ゆ
天下平定間近の織田信長と、そんな信長の野望を阻止せんと必死に食い下がる近衛前久。この不倶戴天のライバル同士の対決と葛藤が、この小説の基軸になっている。信長は、ひたすら天皇を超越する存在になろうとしている。朝廷を預かり、天皇家を守る前久にとって、それは到底容認できることではなかった。下巻では、2人の対立は傾斜度を増し、ついに前久は信長誅殺を決意し、その一計を案じることになる。
東宮夫人・晴子との道ならぬ恋に、信長自身うつつをぬかしている間にも、じわじわと形成される信長包囲網。前久は、最後の仕上げとして、光秀に信長暗殺の斬り込み隊長になるよう迫る。さらには、首謀者たちと引き合わせて、彼を「本気」にさせようとする。これが本能寺の変直前に開かれた、有名な愛宕神社の歌会である。
光秀が詠んだ「ときは今天が下しる五月哉」という句は、謀反のくわだてが読み取れる
と従来解釈されてきたが、著者はこれを一蹴する。光秀ほどの教養人が、自分の野心をひけらかすほど不作法ではないというのだ。むしろ、挙兵せよと促されたことに対しての覚悟の返答なのだと、著者は『平家物語』などを用いて開陳している。このくだりは、斬新な謎解きを見ているようで、非常にスリリングである。
本能寺の変を朝廷対信長の王権抗争ととらえることによって、この事件は俄然新鮮味とおもしろみを得た。無駄のない文体と描写が、さらにこの小説を力強いものにしている。(文月 達)
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レビュー
時代:1581年(天正九年)〜1582年(天正十年)
著者:
安部龍太郎
出版:新潮文庫
発行:2004年9月
単行本
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上総介の評価
★★★★★
日本経済新聞の夕刊に連載された作品の単行本化。「神々に告ぐ」「関ヶ原連判状」との三部作です。信長の小姓で生き残った「たわけの清麿」が三十五年後に「本能寺の変」についての真実を書き始める設定。織田信長と近衛前久との対立をテーマとして、本能寺の変までスリリングに描いています。
■
主人公
織田信長
(おだのぶなが)
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脇役
近衛前久
(このえさきひさ)
明智光秀
(あけちみつひで)
勧修寺晴子
(かじゅうじはれこ)
■
登場する武将
森蘭丸
(もりらんまる)
森坊丸
(もりぼうまる)
織田信忠
(おだのぶただ)
細川藤孝
(ほそかわふじたか)
織田信雄
(おだのぶかつ)
織田信孝
(おだのぶたか)
羽柴秀吉
(はしばひでよし)
木曾義昌
(きそよしまさ)
穴山梅雪
(あなやまばいせつ)
武田勝頼
(たけだかつより)
仁科盛信
(にしなもりのぶ)
滝川一益
(たきがわかずます)
小山田信茂
(おやまだのぶしげ)
徳川家康
(とくがわいえやす)
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その他の登場人物
*清麿(きよまろ)
*風の勘助(かぜのかんすけ)
近衛信基
(このえのぶもと)
吉田兼和
(よしだかねかず)
正親町天皇
(おおぎまちてんのう)
誠仁親王
(さねひとしんのう)
中山親子
(なかやまちかこ)
勧修寺晴豊
(かじゅうじはれとよ)
*房子(ふさこ)
アレッサンドロ・ヴァリニャーノ
弥助
(やすけ)
快川紹喜
(かいせんしょうき)
里村紹巴
(さとむらじょうは)
*印は著者の創作人物または実在したかどうかは不明な人
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